「安値で買って、高値で売却する」勿論これをしなければ収益は得られません。株式市場は常に環境の変化により、変動と振幅を繰り返しています。毎日、一分一秒常に同じことはありません。振れ幅が大きい局面では、1時間もしないうちに大きな収益を得られる場合もあり、市場はその参加者に収益獲得の機会を与えています。でも、そういった運用は、それを本業とするプロに任せるべきです。現代の株式市場では、情報の量と取得スピードについていかないと、短期間で適格に収益機会を捉えることは極めて難しいと言えるからです。個人の投資家にとって、短期志向での収益獲得はもはや「投資」ではなく「投機」になってしまいます。
それでは、個人投資家が志向すべき投資姿勢はなにか。それは、「価格の振幅を取りに行くのではなく、株式市場全体のトレンドを取りに行く」ということに尽きます。しかもこの投資姿勢は、長く保てば保つほど安定性を増し、収益を獲得できる確度が上がります。その理由と背景は後述するとして、まずは前回(№1)でお示しした経済・景気循環に即した投資タイミングから解説したいと思います。
1. デフレ→インフレ→デフレ・・・の循環を捉える
№1の記事でご説明したように、経済・景気の状況により株価(株式価値)は変化します。デフレの局面は株価低迷は余儀なくされ、逆にインフレ局面では株価は上昇する。経済・景気の循環に連動することが期待できる訳です。
ただし、インフレで注意しなければならないことは、通常のインフレと不健康なインフレ(スタグフレーション等)があることです。景気の実態を伴わない不健康なインフレは、株式市場にとってマイナス要因になる可能性があるからです。本稿では通常のインフレで仮定します。まず、下の図表を見てください。
この表は、時代や時間の推移とともに景気動向が循環しているイメージ図です。株式の価格(価値)もこの曲線に連動すると仮定すると、どのような投資行動や対応をすべきでしょうか・・・
お分かりいただけたと思いますが、以下が適切な対応となります。
デフレBの局面で自分の資産を多めに株式に配分し、次のインフレCの局面に備える→Cの局面では、株式売却により収益を獲得、日常生活資金を補足する。株式投資を控え、次のDの局面に備えて自分の資産の現金比率を増やしておく。
以上が合理的な株式投資の対応になります。これは、株式投資を通じた積極的な「収益追求」という表現より、№1の記事でも触れた「資産防衛」対策と表現した方が適切と思料します。なぜなら、インフレやデフレに伴い、株式だけではなく「お金(現金)」の価値にも変動が生じるからです。インフレ局面では、モノの価値が高い分お金の価値は下落しますが、デフレ局面ではその逆になります。すなわち、今1本100円のボールペンが、将来200円や50円にもなり得ると考えると、同一同性能のボールペンに対し、お金が持つ力(購買力)に大きな強弱が出るということです。上記を言い換えると「将来デフレを予想する局面では、お金の力が強くなることが予想できますから、自分の資産内の現金の比率を高め備えておくべきであり、逆に将来インフレを予想する局面では株式の比率を高めて備えておく」となるからです。これは保守的で期待以上のプラスアルファを志向しない運用手法と表現してもいいかもしれません。ただし、「お金」の価値の変動に着目し、どのような経済環境でもその購買力の維持を目的とするという点では、正に「資産防衛」を図るための大切な考え方と思料します。
2.著名な投資家ウオーレン・バフェットに学ぶ投資タイミング
ここではもう少し、人間の心理状況や投資環境に照らした投資タイミングというものを深堀してみます。前記のタイミングの捉え方とは違う視点を理解ことも重要だからです。
長い株式市場の歴史を考えた場合、人間の心理に着目し経験則をもとにした相場特有の格言がいくつかあります。有名なひとつが「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」です。これを図表に示したのが次です。
<悲観>と<生誕> | 不安が蔓延し誰もが見向きもしなくなっている株式市場。しかし、下落に歯止めがかかっている。 |
<懐疑>と<育つ> | 市場が少し回復したからといって、まだ不安は拭えない。しかし確実に投資活動が回復し、上昇基調を辿り出している。 |
<楽観>と<成熟> | 市場は不安を完全に脱し、先行きは良好と多くの人が認識。安心感が出ている。しかし、価格の水準はかなり割高になってきているとの見方も一部でている。 |
<幸福感>と<終焉> | 市場の参加者は期待していた以上の価格推移に満足している。しかし・・・ |
上記の<楽観>の局面で投資を開始するケースが多いのが実情です。このことから推し量れるのは、多くの人々が「皆が株式を買って、期待をもって市場を注目している」と言った安心感の裏付けを投資開始に必要としているということです。従って、心理的に<悲観>と<懐疑>であるうちは、意思決定には至らない訳です。結果的に絶好のタイミングを看過しがちということです。
<楽観>の局面で株式を投資したとしても、<終焉>が近い訳ですから、実入りが少ないか、その後の下落局面でも株式を保有し続け、結果塩漬けと化してしまうことも多いのです。プロのような判断で少々損失を計上しても仕方がない(それよりもいち早く一旦市場から逃げる)という意思決定をしないことが多いことも特徴です。これは、「行動経済学」で言うところの「人間は、利益を得るよりも損失を被る方が心理的な振れ幅が大きい」に起因しています。これは、利益獲得の喜びの度合いよりは、損失のショック度合い(ダメージ)の方が大きいということであり、要するに少しの損失でも毛嫌いするということです。
投資家心理については、現在でも投資の神様とも称される投資家ウオーレン・バフェットは、この格言と同様の表現をしています。それは「不安で皆が委縮しているときは大胆になり、逆に皆が好相場に浮かれているときは慎重になれ」です。前述の格言と同様、人間の心理に根ざした名言のひとつと言えます。実際、彼はあのリーマンショックの直後に、業界として極めて逆風が吹いていた米投資銀行のひとつに投資をしたことは有名な話です。結果として巨万の富を得た背景は決して偶然ではなく、信念にもとづいた必然とも言える訳です。
加えて、もうひとつ核心的な名言も残しています。それは、「自分が一生保有し続けてもいいと判断できる株式に投資をせよ」です。短期的な視点で企業を判断せず、長期目線でその成長を見据え、投資をするべきと言っているのです。見方を変えるなら、企業であれ個人であれ、常に安定維持と繁栄を見込むのは困難であることを前提として、「たとえ難局においても、それを克服できる能力を有している企業を選別せよ」と言うことです。
3.個人投資家が重視すべき投資タイミングとは
あえて最初に申し上げるなら、一般の個人投資家の場合は投資タイミングに強く拘るべきではないと考えます。その鍵は冒頭に示した「市場のトレンドを取りに行く」という投資方針に徹することがそれより大切と考えることがひとつ。もうひとつは値動きだけに着目し「出来るだけ安い価格で投資をし、かけ離れた高い価格で売却する」に固執してしまうと、全体のトレンドを見失い、逆に機を逸する可能性が高いからです。
ここで、長期運用と投資を開始するうえで持つべき大切な「心構え」があることに触れます。
これは、株式等有価証券を中心に投資を開始するうえでの大前提とも言えることですが、この前提を見込まなければ投資を通じての資産運用を否定するものだからです。
それは、「未来にわたって経済は拡大し成長し続ける」と半ば確信して市場の世界に入ることです。
もしもこの世に無限なものがあるとしたら、「それは人間の欲だ」くらいの断定が必要です。「生活を今より豊かにし生活レベルを上げるという欲」をどの時代もいかなる人間も捨て去ることは不可能と断定するならば、投資をすべき心構えはもう出来上がっています。そして、これから少なくとも10年以上の長期スパンで腰を据えた投資活動を考えるべきです。
なぜなら、今一度過去を振り返って見てください。戦後70年の経済復興をもたらしたものは、この「欲」がパワーの源泉であることは、否定する者はいないでしょう。
日本の株式市場の時価総額だって、バブル全盛期は約600兆円(東証1部)でしたが、直近では900兆円(東証プライム)を超えています。「失われた30年」と言われ苦しみながらも、日本の経済規模は確実に拡大したのです。この「人間が持つ確かな欲」が生み出す経済成長の長期トレンドを取りに行くことこそ、投資本来の姿と考えます。
これを踏まえて次のイメージ図表を見てください。
イメージ図表では、波打つ株式市場の価格線が緩やかに右上がりに推移しています。前述の確実な経済成長の長期トレンドを前提にすれば、経済の鏡である株式市場は当然右上がりを想定します。時々の市場を取り巻く環境変化は、市場の反応として期間中の振幅で表現しています。
このイメージ図から得られる結論から申し上げますと、本稿の理想とする個人投資家の投資のあり方は、「投資期間中の価格の振幅を利用して収益を獲得に行かず、長期運用で得られるトレンド収益の獲得を目指す」ということです。すなわち、上記イメージ図において点線で示した「短期収益線」から得られる値幅に着目した投資スタイルではなく、図表で示した「トレンド基準線」と「トレンド平均線」の乖離(値幅)である「トレンド収益」に着目した投資スタイルを志向することです。「運用途中での株価の騰落はあまり意識せずに、あくまで緩やかな右上がりのトレンドに即した収益を長期で獲得にいく」、この投資姿勢は老後の資金補足目的には特に適している考えます。
「短期収益線」が示すそれぞれの値幅を確実に取れるなら、トータルでは必ず「トレンド収益」を大きく上回ります。しかし、そういった運用はプロに任せるべきです。実はプロであっても、その値幅を継続的に取り、収益を積み重ねることは至難の技なんです。ましてや、情報の量とその取得スピードに劣後する一般の個人投資家は、短期的なパフォーマンスに多くを期待すべきではありません。それよりは、図表の「トレンド収益」を追求する方が、遥かに収益獲得の確度が上がります。しかも、この長期トレンドを利用して収益を追求する場合、投資タイミング(入口)と収益獲得タイミング(出口)に拘る必要がそれほど重要ではないことが図表から理解できます。特に、出口の判断においては、プラスマイナス20%程度のブレの発生をあえて無視することも大切です。それは結果であり後悔するものではないからです。過去の値動きの推移を見て「このタイミングでこうすべきだった」と振り返るのは、全く意味をなしません。
以上が、巻頭にに述べました「一般の個人投資家の場合は投資タイミングに強く拘るべきではない」の背景と理由です。
次回(№3)は「個人投資家の資産ポートフォリオと究極の投資手法について」を掲載します。
(2024年3月:文責 小山田 真)