家族信託には、後見的機能・遺言的機能等生前対策としてそれを活用する方がにとっては、非常に使い勝手のいい仕組みを有しています。基本的に当事者間の契約なので、信託法に則りしっかりした設計と運用をすれば、設定者の意図の実現を問題なく可能にできる制度と考えます。想定できる家族信託のスキームは数多くありますが、本稿では家族信託をこれから検討する皆様が自分のニーズに合わせた設計の仕方をイメージできるよう典型的なスキーム事例をいくつか紹介いたします。なお、まだ仕組みがよく理解できていないと感じている皆様は、家族信託を分かり易く解説した以下のリンクを参照ください。
<これを1回読めば、家族信託を理解できる!
1.本稿でご紹介する各スキームの概要
①生存中の高齢夫婦生活の安定、自分亡き後の妻支援兼遺言代用型信託
②自分の資産の承継先を次世代以降まで指定する受益者連続型信託
③親亡き後の障害者支援福祉型信託
④自分亡き後の配偶者支援および相続における遺留分対応型信託
⑤先代から承継している兄弟で共有している不動産を一括処分する信託
⑥再婚者の生活支援と前妻の子への資産承継を目的にした資産処分型信託
⑦後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(1)
⑧後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(2)
2.個別家族信託設計の内容
①生存中の高齢夫婦生活の安定、自分亡き後の妻支援兼遺言代用型信託
(目的)夫(父)の判断能力低下および死亡後に備え、生存中の父および
父逝去後の妻(母)の生活を長男の適切な財産管理を通じて守り、
夫婦逝去後の資産を子息に確実に取得させる。また、任意後見契約
と併用し、父の認知症発症後の法律的行為についても備えておく。
(関係当事者とスキーム設計)
<関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。母の扶養分兼
ねる)、第2受益者(母)・受託者(長男)・財産の最終的
な帰属者(長男・長女) なお、長女は父の任意後見人とする
<信託財産>~預貯金と自宅
<信託の終了>父および母の死亡~信託の残余財産は長男と長女が
取得
②自分の資産の承継先を次世代以降まで指定する受益者連続型信託
(目的)父と母に病気等不測の事態が生じても、財産の管理を親族に任せ
ておくことで、その生存中の生活安定を図るとともに、父死亡後の信
託財産を母→長男→長男の子(孫)と次世代以降まで受益権の承継先
を指定する。信託財産の管理者(受託者)は長男の妻とする。
(関係当事者とスキーム設計)
<関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。母の扶養分兼ね
る)、第2受益者(母)・第3受益者(長男)・受託者(長男
の妻)・財産の最終的な帰属者(長男の子)
<信託財産>~預貯金と賃貸マンション(兼自宅)
<信託の終了>長男の死亡~信託の残余財産は長男の子が取得
③親亡き後の障害者支援福祉型信託
(目的)高齢化した親(母)の財産の管理を長女に任せ、親自身と知的障
害者(長男)および親亡き後の障害者(長男)の継続的な生活安定を
図る。
(関係当事者とスキーム設計)
<関係当事者>委託者(母)・当初受益者(母。同居障害者の扶養分
兼ねる)、第2受益者(障害者)・受託者(長女)・財産の最終的
な帰属者(長女)
<信託財産>~預貯金と自宅
<信託の終了>長男の死亡~信託の残余財産は長女が取得
④自分亡き後の配偶者支援および相続における遺留分対応型信託
(目的)父母が生存中は父が保有する賃貸アパート兼居宅の管理を長男に託
し、父が当初受益者としてその賃料収入を生活費に充当、生活を安定化す
る。父の逝去に伴い、当該信託アパートの受益権は、第2受益者の母およ
び長男・長女に継承される。ここで受益権を2つの権利に分離する。賃料
収入(収益受益権)部分は母が取得し、不動産の本体(元本受益権)部分
は長男と長女が取得する。このことにより、父亡き後も母の生活は安定す
ることに 加え、相続法上遺留分を有する長男・長女も元本部分を承継す
ることにより、遺産分割割合の不均衡を是正することができる。
※信託財産である賃貸アパートの受益権を収益受益権と元本受益権に分離できることも家族信託の特徴。相続税法上の評価額も別々になります。
(関係当事者とスキーム設計)
<関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。同居障害者の扶養分
兼ねる)、第2受益者(母・長男・長女)・受託者(長男)・信託
財産の最終的な帰属者(長男・長女)
<信託財産>~預貯金と賃貸アパート(兼居宅)
<信託の終了>父および母の死亡~賃貸アパートは換価処分したうえ
で、残余財産は長男と長女が取得
※本スキームは「配偶者居住権」制度の代替的な活用法とも言えます。 (家族信託。ケースバイケースの設計を考える!~その2に続く)