これから遺産分割を始めるにあたって

遺産分割を始める皆様へ

身近なご家族が亡くなることは、その覚悟があったとしても悲しいことです。しかし、悲しみの中でも、故人が有していた権利や義務についてご遺族は整理や承継等それに対応しなければなりません。相続の手続きです。遺産分割には特に法的期限はありません。ただし、そのまま放置しておくことは、何らかの形で後々ご遺族の皆様全員に跳ね返ってくることも考えられます。早めに対応するに越したことはないのです。冒頭で触れたようにご遺族は故人が有していた財産上の権利や義務を包括的に承継します。承継する財産を「遺産」もしくは「相続財産」と言います。ご遺族と言っても、相続財産の承継処分(遺産分割)については、正確には「法定相続人」および包括受遺者等の方々がその対象となります。故人にとって一番身近な存在だった方が相続人の代表者となり、中心として皆の話を取りまとめ、処分内容を整理・統括することが多いと思います。また、話を切り出すタイミングは、心が少し落ち着き、皆が集う49日あたりにするケースもよく聞きます。ここで、話し合いを始める前に確認しておくポイントが三つあります。一つ目が、故人の相続財産の内容確認をし、全て洗い出しておくことです。注意しなければならないことは、相続財産には、金銭的価値のあるプラスの財産のみならず、生前故人が有していた債務等のマイナスの財産も含まれることです。プラスの財産が承継する「権利」であるなら、マイナスの財産は「義務」の部分ということになります。二つ目は、話さなければならない対象の「法定相続人」等を、確定しておくことです。三つ目は、故人が遺言書を遺していないかどうかの確認です。(「法定相続人の確定」と「相続財産の調査範囲」は以下のリンクを参照してください。)
<相続人と相続財産の調査

相続財産の処分方針の決定を通常「遺産分割協議※」といいます。この協議の進行と決定には、次の注意事項があります。
 1協議と内容決定には法定相続人全員が同意する必要があること
 2相続財産の内容は法定相続人全員が正確に情報共有しておくこと
 3民法上の法定相続割合はひとつの基準であり、全員が同意すれば、その
  割合に捉われない遺産分割内容も有効であること

 4遺言書がある場合、内容については、基本、全員(受遺者含む)が情報
  共有すること
  ※「遺産分割協議」と言っても、必ず一同が会して行うという必要はありません。分割内容に
   ついて全員の同意が大前提ですが、お互いの電話連絡等による話し合い・協議でも構いませ
   ん。
ただし、話がまとまったら、協議内容と結果を記した「遺産分割協議書」は全員の署
   名・捺印のもと証跡として残すことが通常です。
なお、遺言書は故人の意思として法的にも法定相続人等の意向より優先されるものですが、その内容を確認したうえで法定相続人(包括受遺者等含む)全員の同意ある場合、もしくは相続放棄や受遺者の遺贈放棄等があれば、遺言書とは違う内容の遺産分割を協議で決めることもあり得ますし、有効です。逆に、一部の相続人の方が遺言内容に不満のため、協議での遺産分割を望んでも、全員の同意が得られなければ、遺言書の内容が優先します。なお、遺産分割協議が終わり、相続手続きが完了した後に遺言書が見つかったとしたなら、「遺言書の内容ではなくてもいい」という同意がない限り、完了した遺産分割協議は無効となってしまうので注意が必要です。(遺言書の扱いや遺言書の重要性等は、別稿で記します)
遺産分割は、スムーズに終えたいものですが、ときに皆の主張が食い違いまとまらないことも多いのが事実です。令和2年の統計では、家庭裁判所が扱った遺産分割に関わる事件数は全国で年間約11,000件にのぼります。しかも、その32%が財産額1,000万円以下のケースとなっています。相続財産額はあまり関係ないのです。調停や審判となるとお互い時間も労力も多く費やします。やはり、これは避けたいです。「親の死を境にして、兄弟関係が変わる」とよく言います。これは、故人が望むこととは正反対のことのはずです。遺産分割にあたり、何よりも大切なことは「お互いが誠意をもって、相手の立場を理解し、思いやり・譲り合いの精神を忘れずに話し合いに臨む」こと。これにつきます。
日本の相続法は、諸外国の中でもかなり複雑と言われています。上記本文内容でも分かりずらい部分もあったかもしれません。当事務所は専門家として、相続人調査や遺産分割協議書作成、相続手続き全般等のサービスを行っていますが、あくまで中立的な立場での法的助言も必要に応じて行い、相続人の皆様の合意形成にも資する所存です。お気軽にご相談ください。

                       (2024年3月~文責 小山田 真)