それでは、家族信託の仕組みと特徴から始め、その後に利用法、留意事項を分かりやすく解説します。
1.仕組みと特徴について
家族信託の契約を分かり易く表現するとこうなります。
Aは、Aの財産をBに託します。財産をAから託されたBは、Cの利益のためにその財産を管理や処分をします。 |
通常、家族信託の組成と運用は1人のみでは成しえません。組成にあたっては以下の3者を最初に決めます。皆様(自分)が家族信託の契約開始を意思決定するとしたなら、皆様(自分)は「委託者」になります・・・・
「委託者(自分A)」・・自分の財産の管理処分を受託者に託す者
⇓(委託者が託した財産は信託財産になる)
「受託者(自分が信頼する者B)」・・信託財産を、受益者のために管理・処分する者
⇓(信託財産から受益権が組成される)
「受益者(自分や他の第三者C)」・・受益権保有者(信託財産から収益を得る者)
これをもとに、前記の表現を言い換えると・・・
自分Aは、自分が信頼している者Bに信託財産として自分の財産を託し、自分や第三者Cが収益を得るために信託財産をBに管理処分してもらいます。 |
※なお、委託者・受託者が同一人物(自己信託)の組成も法的に可能です。しかし、本稿の説明では、理解の混乱を避けるため、あまりこのことは考えないでください。
家族信託は、委託者と受託者の2者が「委託者の財産を受託者に託します」という契約を結び、スタートします。
ここで、家族信託契約で受託者の管理下になった「信託財産」は、素晴らしいからくり有していることを理解しなければなりません。上記の内容をより分かり易く解説します。たとえば・・・
ご自宅をお持ちの方も多いと思います。ここで、父一人がそこに住み、長女家族がと近隣に居住していると仮定します。通常、自宅を建立し居住している人は、その「所有権」を有しているという状態です。「所有権」は、自宅であれば「そこに住む・それを管理する・それを売却等で処分する」等を権利として一体化され内包しています。これは、民法の決め事です。しかし、「住む」ことを収益権(住むことは自宅から得られる収益です)、「管理し処分する」を管理処分権と区分した場合、信託法ではこの収益権(信託では受益権といいます)と管理処分権をそれぞれの権利として分離できるとしているのです。つまり、委託者(父)が所有している自宅の収益権(受益権)を父に、管理処分権を長女にという具合に、それぞれ分けて権利保有させることを可能とした訳です。これが、家族信託の最大のからくりであり、ポイントなのです。それでは、このからくり(特徴)を生前対策として活かすにはどのように利用すればいいのでしょうか。
2.利用法について
この信託法に準拠した家族信託のからくりを利用すれば、高齢の委託者にとって「安心の生活」を今後も継続することが可能になります。前述の例で言うと、委託者(父)が、加齢のため認知症や寝たきりになる不安を抱えて生活している場合、健常なうちに家族信託で保有している自宅の管理処分権を受託者(長女)に与え、収益権(家族信託では受益権といいます)を父が持っておくという生前対策が考えられます。不幸にも父が認知症になってしまったなら、施設に入ることも検討しなければなりません。施設の入居生活が、持っているお金のみではカバーできない費用がかかるため、自宅を売却処分して資金を捻出する必要が生じた場合、売却処分という法律行為を認知症の父にはできません。ところが受託者として「管理処分権」を有している長女は単独の判断と行動で自宅を売却処分できる訳です。また、お金も信託財産にしておけば、父はたとえ寝たきりになっても、定期的に長女から生活費として支給を受けたり、自分の医療費等に充当させたりすることも出来るようになる訳です。加えて、将来父が亡くなったときには、残った信託財産の承継先を長女に指定しておくことも家族信託の設計では可能です。前者は、家族信託が有する「後見的機能」であり、後者は「遺言機能」と位置付けることができます。つまり、後見契約と遺言作成を家族信託というひとつの契約でカバーすることができる訳です。
ここで押さえておくべき、家族信託の重要なポイントがあります。
それは、スタート前に委託者は「なぜ家族信託の契約をするのか」、つまり「信託の目的」をしっかり定めなければならないということです。前述の例で言うと委託者(父)は、自分の認知症発症の際には自宅を売却処分して施設入居費用に充当してもらいたい。だから、今から受託者(長女)に自宅を管理処分の権限を与えたい」との意図を持っている訳です。これが、家族信託契約における「信託の目的」になります。自宅については、受託者(長女)は委託者(父)が定めた信託の目的に沿った管理・処分しかできません。そして、長女は受益者でもある父のためだけに、自宅という財産の管理処分をするのです。整理しますと、前述の例では「委託者(父)が信託した財産(自宅)を、受益者(父)のために、受託者(長女)に管理処分させる」ということになります。受託者の管理処分の権限は、専ら受益者のためであり、委託者が定めた「信託の目的」に拘束されることをしっかり理解してください。
そして、委託者は、受益権の承継者(後継の受益者)や家族信託の終了の理由、時期も契約当初に定めます。前述の例では、「父が死亡したときは、家族信託は終了し、自宅もしくはその売却代金(信託財産)は長女に帰属させる」等と契約に定めておくことになります。実質、遺言と同じです。
他にも、家族信託のからくりを利用した生前対策はかなり多くあります。たとえば、ひとつの例を上げると・・
<自宅を空き家にしてしまうリスクを回避する>
想定:20年以上前に父から相続した地方の古い居宅にその長女が1人で居住。長女は自分が死ぬまで住み続けるつもりである。また、この居宅は長女の兄弟である次女・長男・次男との共有不動産となっている(自宅は父の相続依頼、名義変更もせず、そのまま放置していた)。兄弟たちは、それぞれ別の都市で自宅を構え居住している。長女亡きあとは、居宅には誰も住む予定はなく、責任をもって管理していく意思もない。長女には息子が1人いるが、隣の町に居宅を構え生活している。長女およびその兄弟は高齢化がすすみ、認知症含め身体上の不安が出てきている。現状、長女はじめ各兄弟は、長女への持ち分集約等手続きが面倒だと嫌がっている。このままだと、いずれ長女の居宅は空き家となり、近所に迷惑をかけてしまうリスクがある。また、売却等その処分も共有状態のままでは、困難が予想される。 |
多くの事例は示せませんが、家族信託はその機能を活かし、抱える課題やニーズに対応する柔軟な設計ができるという点をここでは特にご理解いただきたいと思います。
3.家族信託の留意点
生前対策としては、多くの使える機能を有している家族信託ですが、利用上の留意点もあります。最後、以下の点を押さえておいてください。
①財産を託す受託者は、信頼できしっかりした人物を選定すること
②契約前には、必要に応じて家族会議等を開催し、関係当事者が契約の目的と内容を理解すること
③あくまで、「財産」に関する管理・処分・承継の対策であること(前述した受益者等の認知症発症における受託者の後見代替機能も財産に関することだけです。受託者に身上保護の権利は付与されていません)
④家族信託に税制上の特例等は付与されていないこと(信託財産の受益権は相続税・贈与税の対象です)
⑤受託者の権限は「信託の目的」に拘束されること
⑥家族信託契約の組成や設計は、家族信託に精通した専門家からアドバイスを受けること(組成や設計にあたっては、特に信託法を理解し、信託特有の重要ポイントを把握しておく必要があるからです)
以上、他にもありますが最低限の留意点を記述しました。
家族信託関連情報は以下のリンクを参照ください。
<家族信託。ケースバイケースの設計を考える!
家族信託に精通した当事務所の「家族信託組成サポート」を是非ご活用ください。
(2024年3月~文責:小山田 真)