事業承継は計画と準備が全てです!

事業承継の成功は、早めの「計画策定と準備開始」が鍵です!

中小企業のオーナー(経営者)の皆様は、誰しも自分の経営する会社の将来をいつも考えていると思います。業務多忙の中、「将来」といっても、今置かれている状況を考え、自社を発展させるためには、今後将来に向けてどのような経営をしていくべきか思案することが優先していると思います。そしてもうひとつ、しっかり考えるべき「将来」があります。それは、本稿の表題のとおりです。このことは、「今」を乗り切っていくことを優先している経営者の皆様にとっては、引退後のことは漠然とイメージだけしている方も多いかもしれません。確かに、責任者としては遠い将来のことを考えるより、今優先して取り組むべきことが多々あることは勿論だと思います。しかし、自分の身や健康を考えたときに、現実として明日以降のことは誰も分かりません。「自分がいなくなった後のことは、身内や社員に任せればいい」と割り切ってしまうこともできます。しかし、冷静に現代の経営・市場環境を考えた場合、昔と違ってこのような楽観的とも言える判断は、会社や身内・従業員の皆様のためにならないことは十分に想像がつきます。単純に、経営者の皆様の人柄や人間性に付き、頼ってきた従業員の皆様のことを想像してみてください。
実際、今の日本の状況は、会社の事業が黒字でも休廃業や解散に至ってしまうケースが相当な数に上っており、ひとつの大きな原因として「後継者不在」があげられているのが実情です。2025年問題というものがあります。2025年には、年齢70歳を超える経営者が全国で245万人に達し、しかもその半数以上が「後継者未定」となっているということです。その中には「このままでは、廃業やむなし」と考えている方々も相当いらっしゃるのが事実です。人手や事業の担い手が不足していることは、多くの経営者の皆様にとって、半ば共通事項になっているということもよくわかります。しかし、打てるべき対策を講じるべきです。中小企業が企業の大半を占めるこの国の状況下、経済への大きなダメージを避けるべく、国も本腰を入れた対策を次々と打ち出しているのはご承知のとおりです。

1.後継者を選び、事業を託す
 では、事業存続のため本気で事業承継を考えるうえで、経営者の皆様は何から始めればいいのか・・・
まず、身内や社内の関係者において「後継者候補を見定めること、しかも早い段階から」これが着手すべき優先事項と当事務所は考えます。昔からの通常の考え方とも言えますが、今でもこれが事業承継を考えるうえで最初に考慮すべき基本と言えます。事業承継の方法はこれ以外にも事業譲渡やM&A等がありますが、それは後継者がいない場合の最後の手段と捉え、本稿ではこの基本から考察してみます。・・・
もしかしたら、全くいないことはないが、「現段階では力不足、能力的に次期経営者として任せられるとは判断しかねる。また本人もそれを担う気概は感じられない」と判断されている経営者の皆様もいるかもしれません。しかし、早計に結論を出す必要はありません。「ポジションとポストが人を作る」という言葉をご存じの方も多いと思います。経営者の皆様側に立ち、違う切り口で表現するならば、「後継候補者にしたいと考えるている人物を真の後継者に育て上げるべく、早い段階から現経営者の皆様が真剣に取り組むこと」つまり、その候補者を現経営者の皆様自身で本気にさせることです。これが一番の策と当事務所は考えます。身内や従業員・役員の皆様等にとっても、自分が将来この会社の責任を全て引き受けようと働き始めの段階から考えている方は決して多くはないと思います。しかし、事業を未来に繋げるために、後継候補者に次期経営者としての自覚を少しづつ促し、教育期間を設け責任を全うできる人間に育て上げること、あえて言うならそのやる気を引き出すことも現経営者の皆様の重要な責務と考えます。そこを避けては、次に繋がりません。また、一朝一夕で人は育ちません。だから、「早い段階から」の着手と冒頭で示しました。
ただし、後継者候補の見定めは、最低条件があります。能力が高い、リーダーシップも備えている等その候補者の属性も大切ですが、それ以前に「現経営者の経営方針・理念や事業運営の考え方を理解し、それを継承する意思がある人」という条件です。能力やリーダーシップ向上は、今少々不足していても育て上げ・教育でカバーできます。しかし、身内や従業員の皆様のみならず、大事な取引先等の関係者の方々にとっては、大切な条件と思料します。勿論、能力とリーダーシップ等を兼ね備えた有力候補者に、この条件を育て上げの過程で浸透させることもできますが、いずれにしても外せない大事な前提条件なのは確かです。経営者交代は会社関係者等にとっては大きな変化であり、間違いなく不安を感じさせます。そう考えた場合、この条件を充足することにより、交代後も現経営者の皆様が築き上げた何より大切な「信頼」の維持に繋がるはずです。また、後継者の方にとっても、将来自分独自の色を事業経営に反映させていくためには、まず最初に関係者の方々の「信頼」確保が土台となるはずです。このことは、身内や社内関係者以外で後継候補者を選定する場合も同じです。早期の後継者候補の選定と計画的な育て上げ(後継者教育)推進、現経営者の皆様の事業運営方針の理解が重要であることは、分かっていただけたと思います。また、現経営者の皆様が事業承継後の経営サポートを当面継続すべく、その「余力」を残しての交代が最善と言え、それを見据えて承継時期を計画することも考えてください。

2.対策を練り、実行する
上記と並行して、計画的に準備すべきことが他にもあります。株式会社を想定して、以下記述します。
まず、事業承継は単に後継者に経営者という立場のみを承継するということではないということを改めて認識して頂きたいと思います。具体的には以下の3つを承継します(項目は抜粋です)。
 ①ヒトの承継~後継者の選定と育成、またその意思の確認(これは1で触れました)
 ②モノやカネの承継~自社株式、設備等事業用資産、自社の債権・債務
 ③目に見えない経営資源~経営理念や方針、自社が有するノウハウや技術、人脈、 
  取引先等の関係先、現経営者の信用力等無形の資産
いかがですか。あらためて対応必要な項目を整理するとこれだけでも結構な数になります。これらがすべて円滑に承継されることで、現経営者の皆様の引退後も安心な経営体制と事業の維持継続に繋がります。どれも大切な引継ぎ項目です。特に②の保有する自社株式や金融機関が絡む資金についての承継、③の目には見えない大切な資源と資産等の承継は、簡単なことではなく、時間をかけて計画的かつ確実に承継しなければなりません。
突然、「それでは、自分は体調不良のため今月末で引退するので、来月からはあなたが経営者に・・・」極端に聞こえるかもしれませんが、もしこれに近い承継だとしたら、私たち専門家の立場で見ると、それはあり得ません。引き継ぐ立場・それを受ける立場両方において次を考えない無責任な対応になる可能性が高いと言えるからです。やはり、現経営者の皆様は健康なうちに、将来の事業承継を見据えて、早期に準備・計画に取り掛かり、上記引継ぎ項目ひとつひとつをクリアにする重要性を認識しなければなりません。事業経営およびその関係者の未来を考えると、「事業承継は相応の時間と労力が必要である」このことに議論の余地はありません。実務的にも承継計画策定から承継完了までの期間は後継者の教育期間を考えると最低5年は欲しいと考えます。(以下に、当事務所が使用している事業承継計画の参考例のリンクを添付しましたので、参照ください<事業承継計画表(サンプル)
添付した事業承継計画表のサンプルを見て頂くとより分かり易いのですが、承継計画はは、それぞれの引継ぎ必要項目の対応時期と対応期間を、会社がやるべきこと・現経営者がやるべきこと・後継者がやるべきことに区分して策定します。また、実際の事業承継の実務では、承継計画策定前に、承継にあたって課題や障壁になる項目の洗い出しを行います。(当事務所で使用している事業承継計画策定のチェックポイント表を以下に添付しております。参照ください<事業承継計画策定チェックポイント
例えば、自社が発行している株式の保有や分散状況はどうなっているか・会社の状況(不良債権や遊休資産の有無等)において整理しておく事項はないか・金融機関取引について見直すことはないか(経営者保証債務の存在等)・関係取引先への影響や関係維持について問題はでないか・承継発表のタイミングはどうするか等々を洗い出します。それぞれ対応する必要がある項目とその対策を承継計画表に載せ、準備対応項目とします。そして、より重要なのは事業承継の意思決定を機に「今後、自社を成長させ価値を高めるには具体的にどうしたらいいか」を極力後継候補者とともに考え、議論する機会を定期的に設けることです。後継候補者に経営参画意識と自覚を促すとともに、現経営者の皆様との意思統一を図ることで、より承継がスムーズにすすみます。加えて、自社の強みや弱み、市場環境等について認識として共有できるメリットもあります。この機を利用し、自社の中期的な「経営計画」を策定し、事業承継計画と並行して業務推進することを強く推奨します。

3.課題に対する具体的な対応策は
洗い出した課題について事業承継の準備対応にあたって、上述したすべての項目についての具体策は、本稿では触れませんが、例えば「自社株式の保有・分散状況」に対する考え方のみ以下で解説してみます。
中小企業をを経営し、責任をもって運営する立場を考えた場合、自社発行株式については少なくともその筆頭株主であることが適切なことは言うまでもありません。オーナー経営者にとっては安定経営の基本となるからです。事業の後継者にとっても、その地位を得ることが重要であることに変わりはありません。「現経営者保有の自社株式を後継者に移転する」これが基本ですが、事業承継を機に分散保有されている自社株式を後継者に集約させることも考えるべきです。少数株主と言えども、株主として経営に対する権利主張ができることに加え、その存在は、将来的に相続等によりさらに分散してしまう可能性がある等、経営者にとって好ましいとは言えません。人間である以上、株主ごとに属性が違うからです。また、すでに所在が不明になっている株主の存在、会社設立時に便宜的に発起人に就任してもらった名義株主等の対応も事業承継前に検討するべきです。この他、後継者が贈与等で自社株式を取得する場合、贈与税等の対策(事業承継税制の適用等)も検討する必要もあります。
後継者への経営権の集中という観点で言いますと、対策としてはその集約のみならず、少数株主の権利等を実質「廃除」することも検討します。集約の方法は、後継者への贈与や譲渡によることが基本です。少し過度な資金負担が生じるケースもありますが、それへの対応策・代替策も少なからずあります。「廃除」は聞こえとしてはよくないかもしれませんが、経営権の集中のためには重要な対策のひとつです。対策の例としては、後継者ではなく自社自体が少数株主より株式を買い取り、いわゆる「金庫株」にしてしまう等が考えられます。他にも種類株式の導入等も対策としてありますが、贈与・譲渡含めこれらの対応方法については、必要に応じて私たち専門家の助言を仰いでください。

4.最後に
今まで、親族や社内・外関係者等身内を後継者にする事業承継について考察してきました。しかし、経営者の皆様の中には「どう考えても、後を継いでくれる者が見当たらない。自分も高齢となっている以上、やはり近い将来会社をたたむ方向か・・」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。もし達成感や満足感を伴って事業を畳むという最終的な判断なら、選択としてやむを得ない側面もあるかもしれません。でも、心の底で事業継続を望んでいるなら、完全に諦めるべきではありません。冒頭に触れたM&Aや事業譲渡等の方法も検討するべきです。一昔前までM&A等は「身売りする・買収される・乗っ取られる」等あまりいいイメージでなかったかもしれません。しかし、高齢化が進捗し、中小企業数減少という経済的ダメージを考えなければならない今の時代、国も含め積極的に推進されています。M&A等は、自社を売却をする側にも大きなメリットがあります。「従業員の継続雇用が確保できる」「現金として創業者利益を得られる」「買収企業という違う箱の中で、自社の事業は活き、継続される」です。自社の社名が無くなり、地域のお客様もさみしい想いをする等悲しい面があるかもしれません。しかし、心残りがある場合の廃業という選択よりは確実に得られるものが大きいです。
最後に、身内等への承継を目指すにしても、M&Aを選択するにしても、引退後事業存続を目指す経営者の皆様であるとしたら、お伝えしたいことがあります。当たり前と言われるかもしれませんが、それは「会社の価値を維持向上するための努力を最後まで継続する」ということです。あえて申し上げたのは、後継者の方にとっても、買収する企業にとっても、貴社の「企業価値」が事業引継ぎを意思決定する際の一番大きな判断基準になることは間違いないからです。

当事務所は、中小企業経営者の皆様に寄り添い、全力で事業承継をサポートいたします。お気軽にご相談ください。
                        (2024年3月:文責 小山田 真)