ものづくり補助金を例にとると、審査による採択率は、年度によって異なりますが、概ね30%~40%で推移しています。この採択率の高低の評価は人によると思いますが、「採択されたら儲けもの」という気持ちで申請作成に臨むのではなく、「補助金を活用して、何としても自社の価値を高めたい」という強い気概をもって取り組む方ことが、採択に結びつく確率を高くさせることに間違いはありません。申請書類に想いが宿るからです。補助金の申請作成は、相応の労力と時間を要するものです。それを無駄にしないためにも、補助金で自社の希望を実現するという強い意思を持ってください。
2. 審査員が申請書類に求めているものを理解する
ものづくり補助金の場合、審査項目のポイントは以下3つです。
① 技術面~補助金活用の事業計画に革新性があるか、また狙いは明確で具体的か
② 事業化面~計画性をもってその事業計画の推進を考えているか、またその市場性と当該事業がもたらす収益性や生産性はどうか
③ 政策面~自社のみならず地域経済(雇用面や地域のニーズ等)へ好影響をもたらす計画か
① の「革新性」については、重要な審査基準になりますが、必ずしも皆が「あっ」と驚くような企画や計画である必要はありません。それよりは、「自社が現状有する経営資源では望んでも叶えられなった事業内容を、補助金の活用で実現可能となる」という視点で捉えます。自社およびそれを取り巻く市場や環境において、期待されるプラスの効果に目を見張るものがあるかどうかです。勿論、将来を見据え業界で先んじて、新規にアイデアを取り入れる等の事業計画も「革新性」のひとつになります。いずれにしても「革新性あり」の判断は、驚きを与える内容というよりも、審査員の方々に「なるほど!」と言わせる着眼点とその印象に依存します。 ②については、場当たり的なものではなく、自社および取り巻く市場の将来を見据えた事業計画について具体性をもって展望しているかということです。 ③ については、国が補助金制度を導入している背景を理解する必要があります。1事業会社の単なる収益性のアップだけではなく、もっと広い視点で、その企業のもたらす地域経済への好影響・派生的な産業への好影響等が勘案された事業計画なのかといった点も、プラスの評価に繋がることになります。 色々な審査項目にもとづく評価を行う必要があるのは、大切な公的資金を原資とする補助金が最大限有効に活用されることが、制度上の大前提だからです。
3. まず、補助金を活用した事業計画の位置づけを明確にする
最初に新規に導入したい設備等について、自社および外部環境の特徴や状況を俯瞰したうえで、その期待する「役割」を明確にします。先に述べると、申請書類の論旨の中心は、自社が有している「課題」、そしてそれを解決するための「対策」と対策を通じて得られる「効果」を記すことであり、それが申請の軸(目的)になるのは誰の目にも明らかです。 その「軸」に分かり易さと、妥当性を加えるためには、まず自社や市場環境の現状等につき、以下のように分類・整理することから始めます。
①自社の「強み(得意分野等)」としているものはなにか。反対に、事業を展開するうえで「弱み(業務的な弱点等)」となっているものはなにか。
② 今、取引先や顧客・市場が求めているものはなにか。それに何か変化が出てきているか。 また、今後の業界に関わる市場の動向や展開はどうなると考えるか。
上記は言わずと知れた「SWOT分析」の考え方です。①自社の「強み」と「弱み」②市場環境の「機会(チャンス)」と「脅威(ネガティブ要因)」を要因毎に分析、今後の経営戦略策定に用います。この考え方は、経済産業省推奨の「ローカルベンチマーク」にも反映されており、補助金活用の検討をされることを機に、このローカルベンチマークの作成を土台にした自社の内外環境分析を行うことをおすすめします。ものづくり補助金の申請書類も、このローカルベンチマークの考え方に沿った内容記述が求められていることが、多く推察されます。 |
A. 強味を伸ばし、事業や市場の拡大、顧客ニーズ充足等に結び付ける。
(例)○○設備の導入により、自社の主力商品△△に今までにない高付加価値を付けることが 可能になる。今後レベルアップが想定される顧客ニーズや要望に対しても即応でき、それを実現させることが可能になる。
(例)○○設備の導入により、強味である△△商品の製造ノウハウを大きく活かし たうえで、今までとは違う分野の新商品を開発製造する。成長が期待できる事業分野と考えられ、積極的に進出、市場開拓をする。
B. 弱みを克服し、市場の機会や顧客ニーズを逃さず捉える。
(例)人的資源の活用に制限があるなか、既存設備のみでは顧客ニーズや市場の要望に応えることが難しい。○○設備の導入により、手作業でしか対応できなかった精密部分を自動化できることとなり、大きく製造時間の短縮と生産量の拡大に繋げることが可能となる。労力不足をカバーでき、繁忙期等発注が重なっても即座の対応も可能。結果、収益機会を逃さず適格に捉えられる。
(例)主力の商品やサービスを提供するうえで、取得できるデータや情報の不足がネックになっている。○○設備の導入により、より詳細なデータ取得やその分析も可 能となるため、提供する商品やサービスの品質向上を大きく図ることができ、競合他社に差をつけることができる。
論旨の「軸」は、申請する「事業の目的」そのものです。策定する「軸」については、項目の組み合わせ方と内容はいくつも考えられますが、重要なのは、お示しした①と②双方の重要項目を必ず関連付けること。そして、決めた軸をブラさない論旨の展開を心がけることです。ものづくり補助金の申請書類は「事業計画書」がその中心ですが、記入を要する記述項目が、細分化されています。しかし、それらはこの「軸」との関連性を加味して記述することを忘れてはなりません。
まず、申請の理由と背景から記述し、自社が克服するべき「課題」とその「対策」を具体的かつ明確する。それに加えて補助金活用により得られるメリットを「誰を、もしくはどの分野をターゲットにし」「どう活用し」「今後どうように事業展開に繋げていくか」を具体的に併記することにより、自社の狙いに合理性と説得性を持たせる説明文に仕上げる訳です。
4.分かり易く印象に残る文章を作成する
補助金の申請書類は、知識や経験を有している審査員の方々が評価します。しかも、数多くの申請書に目を通している方々です。審査し採択を決定するまでの時間も長く取れない背景をまでのことを考えると、一読で「分かり易く、印象に残る」文章でなければ、評価を得ることが難しいと言えます。目指すは、「読み返しを要せず、分かり易く理解可能な流暢な表現」です。まず「分かり易さ」はなぜ重要なのでしょうか。日本の中小企業等が扱う事業の種類は、多岐にわたります。いくら知識や経験を有した審査員であっても、その全てに精通している訳ではありません。事業者の皆様にとっては、当たり前のことで簡単に理解できる商品や機能であっても、それを利用する顧客にとってはすぐには理解やその良さを評価が出来ないということがままあると思います。必要に応じ、専門用語や表現をかみ砕いて説明することも大切です。申請書類に目を通す過程で「この事業者は、こういう事業を展開し、それを発展させるためにこういう企画や計画を考えているんだ」とすぐイメージできるようにしてあげることを考えなければなりません。「分かり易さ」=「イメージのし易さ」です。あくまで、申請書類の読み手の立場で考えることが重要です。このイメージの醸成を助けるため、事業者が取り扱う商品や実際に商品を製作している現場の写真等を文章にあわせて掲載することは、すごく効果的になります。また、記述内容の根拠を補足するためのデータ等をグラフや図表化して掲載することも、分かり易さの醸成と理解促進のために極めて効果的です。このことは、「印象に残る」にも共通して言えることです。人間は、その目に訴えるほうが、理解が早まり、印象に残るのです。また、分かり易い文章にするためには、具体的な表現をするということも大事です。たとえば食品ひとつの表現にしても、単に「おいしい商品」と表現するよりは、「新鮮さと甘味を兼ね備えた商品」の方が単純ですが分かり易さと印象に違いが出ます。一行の文章にしても、「この設備を導入すれば、以前より短時間でA食品を製造でき、生産性が格段に向上する」という文章よりは、「この設備を導入すれば、以前より作業工程が大幅に減少、A食品を短時間で製造ができる。製造コストの削減と注文に対する機敏な対応・生産が可能になることに加え、当社が目指してきた『材料が本来持っている【新鮮さと甘味】を損なうことなくお客様に提供する』という理想の実現にも大きく貢献にする」という文章の方が、より具体的で説得力も増し「分かり易さ」と「印象」に違いが出るはずです。文例のように導入設備から得られる効果の表現をひとつに留めることなく、具体的な相乗効果にも言及することで、補助金を活かせる領域が大きいとの印象を持たせ、より「革新性」を訴求する表現にできます。これに商品の納品までの時間と製造量等について、現在と設備導入後の比較データ等図表化したものをあわせて掲載すれば、説得力がさらに増します。 以上のように、ひとつの表現や文章を作るにしても、読み手の立場に立って丁寧に気を使うことが、審査員の方々の「なるほど!」を得るうえで極めて大切です。要するに、時間の限られている審査員の方々から「一読で理解でき、好印象と高評価を得る」ための申請書類完成に全力を注ぐということです。
4. 最後に~申請書類に盛るべきこと
好印象と高評価の申請書類作成ために、意識的に触れてほしいこと等を以下のとおりポイントとして補足しておきます。
① 自社の「価値」とそれを向上させる具体的ビジョンを明確に記すことです。言い換えると、今後「選ばれる事業会社」を志向するうえで、何を重要視して事業展開していくのかを、補助金活用に関連付けて説明してください。これは、自社の「経営理念・方針」の理解に直結するものだからです。
② 自社の「価値」に言及するうえでは、業界や地域での独自の存在感であったり、技術革新への取り組みや環境変化への対応、業界他社との比較優位の確保等いくつかの観点があると思います。しかし、いずれにしても、収益や生産性向上を志向する文章であっても、何らかの形で「今後も社会や地域発展に貢献していくことが期待できる事業会社である」ということを印象付ける文章を付加してください。
③ 今までの事業とその取り組みに対する「自信」、補助金を活用した事業計画への「自信」、その自信から得られる「明るい展望」を気持ちを込めて申請書類に反映させてください。
(2024年3月:文責 小山田 真)