1. 別途配慮等必要な相続人等構成のパターン
①故人~独身・子なし 相続人~兄弟姉妹およびその代襲相続人 (もしくは上記兄弟姉妹に加え異母兄弟がいる) |
未婚率が増加している現状、単身世帯は増加傾向にある。このパターンは増えると予想される。 | <問題点>・兄弟等も高齢化しており、スムーズな手続きが困難なケースも。遠隔に在住していることも・甥や姪が相続人になるケースも考えられ、疎遠な関係にあることも考えられる。・故人の財産状況について詳しく把握できないケースもある(借入金の存在等)・孤独死の対応も考えられる |
②故人~再婚している。前妻との間に子がいる 相続人~再婚者、再婚者との子、前妻との子 |
離婚経験者も相当な数に昇っており、このパターンもかなりある。 | <問題点>・前妻の子にとっては、故人の財産の詳細が分かりづらい。・相続人同士が疎遠な場合が多い・故人が単身ならば孤独死の可能性もある |
③故人~同性パートナーがいる 相続人~兄弟姉妹 |
日本においては、現状同性婚が認められていない。同性パートナーはそのままでは相続人にならない。 | <問題点>・同性パートナーは相続人ではないため、相続手続きができない。・生活用銀行口座が故人のものである場合がある・居宅が故人の所有名義だったら、住み続けることに問題が生じる場合も・ |
④故人~単身者である。 相続人~兄弟2人いるが、1人は現在所在(行方)不明である。 | 行方不明者の生死が不明の場合、とりあえず不在者財産管理人がその代理的立場で手続きを行う。 | <問題点> |
⑤故人~完全単身者である。相続人が存在しない。 | 残された遺産はの管理は家庭裁判所から選任された相続財産管理人が行うことになる。 | <問題点>故人にとって準相続人的な立場の人間が存在するかどうかで、最終的な遺産の行方が決まる。 |
2.上記一覧表における対応ポイント
①~⑤まで残された相続人等にとっては、遺言書を作成しておいてもらいたい典型的なパターンと言えます。遺産分割や相続手続きに通常よりも苦労を伴うと予想されるからです。残念ながら遺言書が残されていない場合の対応ポイントにつき以下解説します。
①故人~独身・子なし、相続人~兄弟姉妹およびその代襲相続人
日頃、兄弟間等で接触やコミュニケーションをあまり取っていないケースも考えられます。甥や姪にとっては、自分が故人の相続人になるとは考えてもいない場合もあると思います。急に遺産分割という話し合いもお互いの事情もよく分からないとか、面識がなかったとか、兄弟間で仲違いしている等も考えられ、難航する可能性があります。法定相続人の一人でも欠けた遺産分割協議は無効となるため、まず相続人をしっかり確定すること。そのうえで故人の債務の存在含め財産調査を抜けのないように行うことが重要です。(また、故人に子や配偶者がいる場合等でも、その相続放棄により繰り上げで相続人になってしまう兄弟姉妹もいるので注意が必要です)。財産調査は各相続放棄を検討するうえで重要です。必要に応じて相続手続きに関しては、専門仕業等に依頼することも検討すべきと考えます。専門仕業が相続人間のハブとなり、各相続人の意見を調整しながら手続きしたほうがスムーズに進むことが考えられるからです。
また、異母兄弟(半血兄弟)が存在するケースも注意が必要です。異母兄弟は、通常の兄弟分の1/2の割合となりますが相続人の一人です。面識がなかったり関係が疎遠であれば信頼関係の構築から始め、不信感を生じさせないよう誠実な対応を取る等円滑に手続きを進められるようにします。
②故人~再婚している。前妻との間に子がいる、相続人~再婚者、再婚者との子、前妻との子
これも、①以上に遺産分割の話し合いが難航するケースのひとつと考えられます。ポイントとしては、再婚相手の方等が、前妻との間の子に故人に相続が発生したこと、相続人であること等をしっかり伝え、故人の財産状況についても包み隠さずに開示する等誠実な対応を取ることです。
やはり、中立的かつ客観的な立場である専門仕業等に手続きを依頼することがベターなケースと考えられます。
③故人~同性パートナーがいる、相続人~兄弟姉妹
同性パートナーは、現在の日本の法律では法定相続人にはなりません(パートナーシップ制度の適用者であっても)。故人に誰も相続人がいない場合等は、「特別縁故者(詳細は後述)」として認められる余地が場合によりあるかもしれません。
上記例の場合、同性パートナーの遺産取り分はありません。従って、故人に何らかの対策を取っておいてもらうことが重要です。遺言書作成は勿論のこと、故人と生前養子縁組を結び相続人の地位を得ること、同性パートナーが受取人になる生命保険契約を故人に結んでおいてもらうこと等が考えられます。
④故人~単身者である、相続人~兄弟2人いるが、1人は現在行方不明である。
相続人の中に行方不明の方がいる場合の対応としては、「不在者財産管理人」選任を家庭裁判所あて申し出ることになります。1年以上音信不通な者等が対象になりますが、家庭裁判所に「不在者」と認めらるには、提出書類準備等かなり手続き等が必要です。当該管理人は、不在者の死去確認・生存確認・失踪宣告確定までの間、不在者の相続財産の管理にあたる者ですが、代理人として遺産分割協議への参加・合意も可能です。ただし、分割内容は不在者の財産取得分を法定相続割合以上にすることが家庭裁判所から求められます。
⑤故人~完全単身者である。相続人が存在しない。
この場合は、「相続財産管理人」が家庭裁判所より選任されます。家庭裁判所への申立人は故人の利害関係者(債権者や特別縁故者、地公体等)です。また、故人の相続人が全員相続放棄した場合も、選任されることになります。当該管理人は故人の相続財産を最終帰属先確定まで管理することになりますが、その最終確定までは順序をもって対応することになります。まず、最初に公告を打ち、故人の債権者の存在を確認したうえで、故人に生前の債務があればそれを清算します。次に清算後の残余財産(債務がなければ全財産)の処分につき、「特別縁故者」の存在確認と故人の財産について当該縁故者による分与請求の有無を確認します。なお、特別縁故者の認定は家庭裁判所の判断になります。
その基準としては、
ア.被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の配偶者、未認知の子、事実上の養子等) イ.義理の親族等被相続人の療養看護に献身的に努めた者 ウ.その他密接な関係にあった者 となっています。
分与請求認定の判断も家庭裁判所の専決事項になりますが、これらの手順を経て故人の相続(残余)財産は、最終的に国庫に帰属することになります。
つまり、債権者の存在を確認・弁済→特別縁故者の分与請求確認・財産承継→国庫に帰属のステップになります。
3.最後に
この他にも、通常の相続手続きよりは対応が難しくなるパターンもあります。
例えば、相続人の中に認知症により判断能力を欠いている方がいる、相続人の中に未成年の方がいる場合等です。いずれも、法的に必要な手続きを伴うケースです。
相続手続き等で対応に苦慮するケース等は、当事務所含め専門家にお問い合わせください。
(2024年3月:文責 小山田真)