資産運用に関しては、日本において幅広い年齢層からその重要性について本当の認識を得たのは比較的最近のことと思います。日本の将来を見据えたとき、特に社会保障についてはどうしても不安を持たざるを得ないことが大きな要因と思います。資産運用は以前にも増して重要な時代であることは間違いありません。これからの資産運用を考えた場合、「有価証券投資で収益確保を優先する」という気持ちに「冷静な目と覚悟をもって考え、意思決定しよう」という心構えを加えることが何より大切と、改めて思っています。
第1回では、個人投資家という目線から株式への投資を概観し、資産として保有することの意味と期待する効果について深く考えます。
1.株式投資の本質と心構えを理解する
個人投資家にとって株式等有価証券への投資は、「経済の状況と成長に見合った収益を追求する」ことがその本質です。いきなり結論から述べましたが、このことを理解すれば、投資の基本原則と持つべき心構えについては8割方カバーできると断言できます。この本質は、裏を返せば、「経済の状況と成長に見合っていない収益は望まない」ということを示しています。常にこの本質を忘れなければ、大きな失敗や後悔を回避することが可能であると確信します。
日本は長らく低成長とデフレに苦しみました。その間、株式市場もその低迷期間は長かった。では、この間における個人の株式投資について考え直してみます。ここで仮に、高い株価で有名企業の株式を保有していたとして、それが下落、全く上昇する気配も感じられず投資への失敗と後悔を感じながら、塩漬け状態を余儀なくされたとします。諦めて時に保有していることさえも忘れてしまう状況を想像してみます。苦々しい状況ですが、しかし、こういった状況も違う観点で見る必要があると、私は本稿で強く言いたいのです。
違う観点とは、自分の実生活の状況を考えてみればすぐ分かることです。経済や景気の低迷は、多くの場合、デフレを伴います(日本も実際そうでした)。周知のとおり、デフレはモノの価格を下げます。逆に、消費者でもある多くの個人にとっては、安くモノを買えるということであり、景気が低迷し少々将来の不安を抱えていても、無駄使いさえしなければなんとか生活できる環境でもあるのです。つまり、デフレ環境においては、普段生活していくうえで、保有している株式からの収益に期待し頼る必要性があまりないということです。言い換えるならば、こういった局面では、塩漬けと化した株式であっても、特段生活の足を大きく引っ張る存在とは言えないのです。しかも、株式は価格が低迷しているとは言え、少なからず配当の期待もあります。
一方で、デフレ環境は扱う商品等の価格を抑制せざるを得ない企業にとってはその収益を圧迫し、自社の株式価値を下げます。このことは、逆にその企業の株式を保有している個人投資家側の目線に立てば、塞ぎこんでしまうよりは「企業が儲からなければ、その企業の株価が低迷していることは当たり前」と考えればいいだけのことです。
2.逆の側面、その存在を理解する
しかし、ここでもうひとつ大事な視点を持つ必要があります。それは、経済や景気の状況は循環するということです。デフレが永遠に続くことはないと多くの皆様がすでに実感しているはずです。デフレの逆は言わずと知れたインフレです。インフレはモノの価格を押し上げ、デフレの時代とは異なり、消費者である個人の生活を圧迫します。その一方で、扱う商品を高い価格で売れる企業にとっては、その収益を増やしてくれます。このことは、株式を投資している個人にとっては、大変な転換点となります。ご推察のとおり、収益増加はその企業の株価と配当に直結するからです。つまり、この局面に入ると、前述の個人投資家にとって長らく「塩漬け状態」だった株式が大きな意味を持ってくるのです。半ばあきらめて保有していた株式が価格の上昇を伴いながら、厳しい生活環境をカバーしてくれる「貴重な資産」に転じます。なんとも嬉しい状況を実感できるのです。実はここに個人投資家にとって、「株式投資」というリスクテークの本当の醍醐味があります。従って、どんな局面に遭遇しても、「株式投資=株価低迷=失敗」と早計に判断すべきではないということをあえて言いたいのです。
3.しっかりした覚悟を持って投資する
これまでのお話のとおり、株式は、個人投資家にとっては「時に不良資産」「時に優良資産」と顔色を変えます。このことは、株式が経済・景気循環に依存せざるを得ない資産としての運命です。しかし、最初からその最大の特徴を全て受け入れて長期で株式投資をすると腹をくくれば、局面毎に頭を抱えたり、後悔する必要はなくなります。特に私たち個人投資家にとっては、株式を将来の生活環境を見据えるうえで大切な資産であると割り切る覚悟が必要です。短期的な収益確保を見込むのではなく、長期保有を覚悟に投資をすれば、期待に応えてくれると見込むのです。いい意味で楽観的な気持ちをもち、「儲け」という結果に強く執着しない心構えで市場の推移を眺め、自分の心に過度なストレスをかけない。このことは、理想的な投資姿勢とも言えます。多くの個人投資家にとって有価証券投資は、本業ではなく経済や生活行動の一部のはずだからです。
一般的な個人を想定した場合、有価証券によるこれからの資産運用は将来の生活レベルを維持するための言わば「資産防衛」の手段のひとつと位置づけることが、適切と考えます。社会保障等に不安がある日本の将来を危惧するならなおさらです。
また、「経済の状況と成長に見合った収益を追求する」この基本発想をもとに投資をし、もし仮に結果として想定以上の収益が得られたとしても、それは、たまたま投資の神様が味方してくれたくらいに考えた方がいいと思います。そういった謙虚な姿勢で投資を判断し継続することは精神の安定にも繋がり、目まぐるしく変化する市場に対しても冷静な目を持ち続けることができるからです。
次回(№2)は、「投資のタイミング」について、考えてみます。
(2024年3月:文責 小山田 真)