遺産分割~意見・主張の食い違いを丸く収められるか?(その2)

遺産分割~意見・主張の食い違いを丸く収められるか?(その2)

以下(その1)の続きです。

次に長女Bの意見から・・・「長男は、父の家に住み家賃を払わずに生活できた。父の介護くらいは当然」ついて考えて見ます。
この意見とおり、確かに前述の「寄与分」の移し替えと捉えることも、共同相続人の間ではひとつの考え方として「あり」かもしれません。その判断の妥当性はさておき(妥当性の判断は行政書士業務外です)、本コラムでは、民法に定める「特別受益」の考え方に照らして整理してみます。「特別受益」は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、・・・」と定義されています。要するに、相続人が生活していくうえで必要な金銭等の財産を故人から贈与等で得たという事実、挙式費用等を除き相続人の婚姻生活に必要な金銭等の財産を故人から贈与等で得たという事実を、遺産分割時に勘案してくださいということです。相続人に自宅建築用の土地を故人が贈与していたケース等が該当しますが、このような故人からの贈与財産については、相続人が「故人から遺産の一部を既に取得している」とみなす訳です。ただし、「寄与分」の考え方と同じく、その贈与等が通常の故人の扶養義務の範囲を超えたものという点には注意が必要です。前述の例で考えると、仮に長男Aが故人の生前に600万円の贈与を受けていたなら、相続財産2400万円にこの600万円を加え3000万円とし、この額を基準に遺産分割を行います(これを特別受益の持ち戻しといいます)。その際、法定割合で考えるとABCそれぞれの取得分は1000万円になりますが、長男Aは600万円を取得済みですから400万円の取得となる訳です。
事例で言うと、長男Aは故人の家に家賃も払わずに住めたので、家賃相当分は故人から贈与を受けていたのと同じことという意見がBCから出る可能性もあると思います。重ねて言いますが、この判断の妥当性について行政書士である筆者(私)は言及することはできません。しかし、いずれにしても「特別受益」は前述の「寄与分」と並んで、遺産分割における争点になることがよくあることを押さえてください。特別受益と見做すかどうかは、共同相続人の方々の話し合いで決めることですが、これも折り合いが付かず裁判に至ってしまうこともあります。例えば、大学等の入学金等の教育費用を考えて見ます。通常、子供の教育費用等の負担は故人の扶養の範囲内であるとして特別受益とはならないものです。しかし、次のようなケースを考えてみてください。「長男Aの私立大医学部進学等に多額の費用を要した。しかし、BCの大学進学希望については故人の経済事情がそれを許さず、高校卒業のみで終わらせた」。これはどうでしょうか。こういった場合、過去の裁判では入学金等を長男Aの「特別受益」と認めた例があったのです。このように共同相続人の方が「特別受益」に絡んで、もしくは故人から受けた待遇や処遇に関することも含めて、ずっと前から不公平感を抱いていることもよくあります。
以上より、「それぞれが抱いている感情・過去の経緯等も斟酌して話し合いに臨む」ということの大切さを改めてご認識ください。

当事者全員が「裁判所で改めて話し合うことだけは回避する」という認識を強く持つべきです。
3.最後に
当初、遺産分割の話し合いが難航する要因として、
1.お互いに生じた不信感 2.遺産分割について公平感の見解相違 3.聞く耳をもたない相続人の存在 を挙げました。今までの内容により、2と3のポイントについてはご理解いただけたと思います。ただ、1の「お互いに生じた不信感」についても、遺産分割に際しては注意しなければなりません。お互いが不信感をもったまま話し合いを始めることは、最初からけんか腰にさせるようなものだからです。どういうことが不信感に繋がるかを最後に概観します。それは、かなり単純でちょっとした理由であることも多いです。例えば・・・
①故人の残した遺産が少額なので、そのまま他の相続人に知らせず放置していた。他の相続人は、身近にいた相続人が黙って遺産を処分等しているのではと考えた。
②「遺産は少ない」と故人の身近にいた相続人の1人から聞いたが、そんなはずはなく、一部隠しているのではと他の相続人が考えている。
③故人の葬儀費用を自分がすべて負担したが、他の相続人は葬儀費用について何も触れず、見て見ぬふりをしているように思える。
④故人の葬儀では、多くの香典をもらっていると考えられる。葬儀費用はそう多くかかってないはずなのに(もしくは、故人の残していた現金から充当したはずなのに等)、「あのお金はどうしたのだろうか」と邪推する・される。
これらの想定は、当事者よっては大騒ぎするような問題ではないとする場合もあると思います。しかし、どれを取っても、当事者の方々が連絡や相談等の大切さを意識しそれを怠りさえしなければ、つまらない誤解を生まず不信感にはならない事象ばかりです。
少なくとも、故人に関わる
お金や財産のことについては、共同相続人の方々の間でできる限り正確な情報共有をしておくこと、連絡や相談を後回し等せず都度行うこと等が大切です(財産調査の結果などは、確実に伝える等)。上記の例で加えるならば、葬儀にかかった領収書等費用明細を忘れずに保存・開示する等の対応を取っておくことも大切です。
以上、少しの心がけ次第で、多くのケースにおいて遺産分割の難行を防げると考えます。スムーズな遺産分割は、その後の良好な家族・兄弟関係に繋がります。
家族・兄弟間の扶養義務についての民法条文ではないですが、本コラムを通じ、いざとなったら頼りにする存在であることを改めて認識いただければ幸いです。

相続発生前に、遺産分割に関してのトラブル発生が予想される等不安があるならば、遺言や家族信託の生前対策を是非検討してください。本コラムで解説したような家族の分裂リスクを事前に廃除できます。

少し長くなりましたが、当事務所は細心の注意をもって皆様の相続手続きをスムーズかつ迅速に進めるため、全力でお手伝いします。お悩みや困りごとを含めお気軽にご相談ください。
                        (2024年3月:文責 小山田 真)