様々な想いを実現する遺言書の文例について・・・

様々な想いを実現する遺言書の文例について・・・

遺言書は、書き上げる文章についての表現方法や内容は自由です。しかし、遺言書はそれを単に書き残すことが目的ではなく、自分の意思や意図を実現させることが目的です。単純に「この財産は○○へ」ということだけではなく、「ただし、取得させるかわりに~をして欲しい」等の裏の意図があるケースもあると思います。この観点で考えた場合、ひとつの文章についても分かり易く誰もが理解できる表現と内容にするべきです。遺言書を読み、遺言者の意思を理解しなければならない立場の方々にとって、その解釈に相違がでたり、意図を判断するのに困難が生じることを防がなければなりません。
また、注意しなければならないことは、遺産を承継する側もそれを受け取るか否かの判断は自由ということです。
本稿では、専門家の視点から遺言者の様々な意思や意図が正確に伝わる遺言書の文例をいくつかご紹介し、その考え方を解説します。

1.遺言者の意図と具体的な表現例
(1)負担付き遺言をする
遺言者の意図 文例

長男に財産を取得させるが、残された妻の面倒を長男に看てもらいたい。     
第〇条「遺言者は長男A(〇年〇月〇日生)に次の不動産と金融資産を相続させる。
:不動産と金融資産の表示(省略)
2 長男Aは前項の相続の負担として、妻B(〇年〇月〇日生)が、生存もしくは施設に入居するまでの間、妻Bと同居し、面倒を看るものとする」


所謂「負担付き遺言」と言われるものです。財産の承継者(受遺者)は、その財産取得額の範囲内で遺言者の指定した負担を履行する義務が生じます。また、遺言者が記した負担内容が履行されない場合、他の相続人等はその履行を催告できること、最終的には当該遺言部分を取消す措置を取ることも可能であるため、遺言者は事前に指定した承継者に自分の意向を伝えておいたほうがいいかもしれません。
この他にも、「財産を承継させるかわりに、遺言者が有していたこの債務を負担してほしい」という場合もあるかもしれません。例えば、遺言者(故人)の未払い医療費や税金・借金等が考えられます。ただし、このような金銭的債務の承継指定は、債権者に対しては法的効力を持たないことに注意が必要です。それよりは、債務返済については頭から指定した相続財産により返済することを指示し、残りの残金を対象の相続人等に承継させる形にした遺言のほうが適切と考えられます。これに関連した遺言文例を次に紹介します。
(2)清算型遺贈をする
遺言者の意図 文例

不動産売却を利用し遺言者の有していた債務を返済したい。返済後の残余財産を分け与えたい。

第〇条「遺言者は、遺言者の有する別紙記載の不動産を換金し、その換金額から遺言者の有する一切の債務を弁済した後の残金を、次の割合で相続させる。
①長男A(〇年〇月〇日生)2/3
②長女B(〇年〇月〇日生)1/3」
清算型遺贈とは、不動産等の相続財産を換価処分し、その換価代金を遺贈の対象にすることです。上記のような清算型遺贈の意思表示は、相続人が困惑せずに遺言者の意思をスムーズに受け入れやすいものと考えられます。特に不動産の承継については、よく相続人同士で紛争の種になります。それを防ぐ意味でも、遺言書で対象不動産の換価処分を指示し、換価後の現金を分割の対象として承継先を指定するほうが、皆の納得を得られるケースがあると思います。
(3)予備的遺言をする
遺言者の意図 文例
財産を分け与えたい人がいるが、その人が
財産承継をしない(できない)場合は、別途承継者を指定しておきたい。
第〇条「遺言者は、二男C(〇年〇月〇日生)に遺言者の所有する別紙記載の金融資産を相続させる。
2 二男Cが遺言者の以前に死亡していたとき、もしくは相続放棄したときは、前項の金融資産につきその妻D(〇年〇月〇日生)を受遺者とする。」

対象財産を承継指定した相続人や受遺者が、遺言者の意思や意図とおり取得できない(しない)こともあります。特に遺言者より先に亡くなったケース等は、当該遺言部分は無効となり、対象の財産は他の相続人による遺産分割協議の対象となってしまいます。その意味では、相続人が処分に困惑したり、遺言者の意思が実現できなくなる場合もでてきます(財産を承継させたくない者が取得する等)。やはり、万が一を想定して上記のような「予備的遺言」を付記しておくことが、スムーズな遺言実現に繋がります。
(4)停止条件付遺言をする
遺言者の意図 文例
孫が大学に入学したら、財産の一部を分け与えたい。 第〇条「遺言者は、遺言者の孫E(〇年〇月〇日生)が大学に入学したときは、同人に現金200万円を遺贈する。
2 遺言者の長男Aは、前条による遺産相続の負担として、第1項の条件が成就するまで、当該現金を無償で管理するものとする。」
条件を付し、それが成就したときに財産を承継させる遺言を「停止条件付遺言」といいます。上記例の他、○○が結婚したとき、○○が事業を引き継いだとき等いろいろなケースが想定できます。ただし、将来のことは確定できない以上、やや不安定な遺言内容と言えます。実際、遺言者が意図した条件が成就しなかった場合、この遺言部分は無効となり、対象財産は相続人の遺産分割協議の対象になってしまいます。従って、条件不成就を想定して前述の「予備的遺言」を記しておいたほうが、より適切とも考えます。また、第2項に記してあるように、条件成就までの対象財産の管理者も指定しておくべきです。この指定がないと、対象財産は相続人全員の管理財産となってしまうからです。これらのことも配慮し、遺言を記すことが大切です。
(5)相続分の指定や包括遺贈をする
遺言者の意図 文例
自分の財産については、取得割合を定めたうえで、対象者に分けてあげたい。自分の思いをその割合で表現したい。 第〇条「遺言者は、遺言者の相続開始時に有する一切の財産を遺言者の長男A(〇年〇月〇日生)に1/2、長女B(〇年〇月〇日生)に1/4の割合をそれぞれの相続分として相続させる。また、長男Aの妻F(〇年〇月〇日生)に遺言者の相続開始時に有する一切の財産の1/4の割合を包括して遺贈するものとする。
2 前項において、具体的な財産の配分については、ABFの協議によって定めるものとする。」
取得させる財産を特定せずに、取得割合を指定する文例です。
通常、このような遺言は、別途指定された相続人や受遺者等で遺産分割協議を行い、具体的な承継財産を決めます。協議を必要とするため、少し悩ましい問題も生じる可能性がある遺言と思料します。なぜなら遺産の中に不動産等の不可分債権がある場合等、協議が難航することが考えられるからです。しかも、不動産については評価額算出方法がいくつかあり、その決めも難しい要因になります。ABF3人の指定割合での共有と決めることもできますが、将来を考えるとそれは望ましい形とは言えません。上記文例に「なお、不動産は固定資産税評価額で評価する」等の文言を加えてやることも考慮すべきです。
また、法定相続人ではない長男Aの妻Fに「包括して遺贈する」の文言がありますが、これによりFは民法で定める「包括受遺者」として法定相続人と同じ地位を得ることになります。従って、Fは遺言者の負の財産(借金等の債務)についても承継することになるので、注意が必要です。
(6)子を認知する遺言
遺言者の意図 文例
家族には、今まで伝えていなかったが認知したい子がいる。その子に財産も残してやりたい。 第〇条「遺言者は、G(〇年〇月〇日生、本籍)を認知する。
2 遺言者はGに別紙記載の不動産を相続させる」
遺言書で認知(胎児含む)も可能です。認知により対象の子は相続人になりますので、上記文例では「相続させる」という表現になっています。なお、胎児認知については、「H(生年月日、本籍)の胎内に在る子」という表現にします。
遺言認知は、遺言執行者の指定が必須です。他の相続人と利益相反になる内容でもあるからです。また、注意事項として、遺言効力発生後に対象の子が成人していたら、認知について本人の承諾が必要なこと、胎児認知についてはその母の承諾が必要であること等が挙げられます。

2.最後に・・・遺言自由の法則はありますが・・・
遺言書に書き記す遺産の処分内容は、原則遺言者の自由です。ただし、遺言を受け取る方々の内容理解とその後の対応・手続きについても配慮することが重要です。また、本稿を通じて、自分の意思や意図を実現するためには、法的な観点や知識も大切であることはご理解いただけたと思います。「遺言にはこう書いてあるけど、どう対処すべきなのか」といった受遺者等を悩ませない工夫をすべきです。

当事務所は、専門家として遺言作成サポートを行っています。皆様の想いを実現すべく、満足とご納得のいく遺言作成をお手伝いします。お気軽にご相談ください。