皆さんは「遺言自由の原則」という言葉をご存じでしょうか。遺言書の作成は国内でもかなり増えてきており、「終活」として代表的な書類です。遺言書は「遺言自由の原則」の言葉が示すように、遺産の処分等について書き記す内容は遺言者の自由です。ただし、何でもいいという訳ではありません。例えば(例としては適切さに欠けるかもしれませんが)、籍を入れていない愛人への遺贈を記した場合、それを記した背景・状況によっては、「公序良俗に反する」として無効とされることも裁判ではあり得るからです。
いずれにしても、後を継ぐ者に対し自分の最終意思として書き上げ、完成させたことで、すでに安心と満足感を得ている方々も多いかもしれません。そして、書き上げた遺言書について「何も専門家に相談せずとも、これで意味が分かるので十分。自書・署名・押印・日付等の形式要件も問題はない・・・」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、考えて見てください。遺言書は「書き記すことが目的ではなく、それを実現させることが目的である」ということを!!実際、相続発生後、せっかくしたためた遺言でもその内容や書きぶりによっては相続人等が揉めてしまうケースがよくあるのです。また、その執行手続きに困惑してしまうケースもよくあるのです。
ひとつ簡単な例を考えてみます。「自分の居宅を○○に渡そう」としたとき、皆さんは遺言書でどのような表現をするでしょうか。
「不動産△△は○○に取得させる」「不動産△△を○○に託すこととする」「不動産△△は○○に管理させる」等々・・・表現には、特に法的な取り決めもないため、どれも意味は通じます。しかし、専門家の立場で見るとこれらは「配慮に欠けた表現」と言えるのです。不動産のようなプラスの財産の承継を考えた場合、表現としては「△△を○○に遺贈する」「△△を○○に相続させる」の2つに統一するということをよくアドバイスします。いくつか理由がありますが、まず下表を見てください。
表現 | 意味 | 表現による受益の対象 | 法的効果 |
「相続させる」 | 相続発生後、その財産の権利・義務を承継させること | 法定相続人のみ | 相続発生後、即座に権利移転する |
「遺贈する」 | 相続発生後、無償でその財産を譲渡すること | 法定相続人以外の第三者を対象にできる(法定相続人も可能) | 相続発生後、観念上、権利移転するが、その確定は「遺贈の履行」を要する |
また、相続に伴う登記には相続登記と遺贈登記の2つがありますが、前述の「託す」や「管理させる」等の表現では、この2種類の登記に当てはめることができないこと等も想定され、適切さに欠けると言えます。
2.他にも配慮や工夫を施すべきことがある
以上より考察すると、ひとつの表現や内容に配慮することも、相続発生を機に遺言書を受け取り、実現させる相続人等にとって大切な意味があるということです。
一例ですが、次のようなことも想定して遺言書を作成すべきと考えます。
仮に「この自宅は同居している長男に相続させよう」と考え、それを遺言書に記すとします。しかし、ここでひとつの配慮をすべきと考えます。それは、「もし、自分より先に長男が他界したとしたら・・・」という点です。
縁起でもない話かもしれませんが、万が一このような不幸が起こるケースも想定すると、遺言書の文言に「もし、長男が遺言者よりも先に、もしくは同時に死亡した場合には、当該財産は○○に相続させる」と加えておいた方が、適切と考えます。なぜなら、実際に相続が発生した時点において、遺産を承継指定した者が先に亡くなってしまっていた場合、当該遺言部分は無効となるからです。結果、この自宅は他の相続人の遺産分割協議対象財産となってしまうため、遺言者の意図とは違う方向性を辿ることも考えられるますし、遺産分割という相続人の負担にもつながります。このような「予備的遺言」等も必要に応じ検討することも大切です。
ケースにより配慮・工夫すべき点は他にもありますが、特に様々な自分の意向を記すことがそれぞれに法的に効力があるか(法定遺言事項に則しているか)等の観点を持つことや、相続人に自分の気持ちや考え方を納得させる文面にするにはどうしたらいいのか等を考慮することが、遺言書作成には大切にです。特に、確かな遺言の実現のためには、後を継承する者に「どうして、このような内容にしたのだろう。遺言者の真意が良く分からない」という感想を持たせない配慮がとても重要です。付言等を通じて口頭で伝える様に遺言者の想いや考え方も忘れずに書き記しておくことで、遺言書を受け取る側に納得感をもたらすことが期待できます。何を書いても自由という「遺言自由の原則」はそこで活かすべきです。
当事務所は、専門家として心のこもった「遺言者の意思を実現させる遺言書」の作成をお手伝いします。
(2024年3月~文責 小山田 真)